湯津上屋 鴨汁 （銀座）

寒さを感じる時分になると、ふと思い出すものの一つがこの鴨汁(1,100円)だ。

ラ・ベットラ・オチアイの程近くの路地をツイっと入ったところにある蕎麦屋。ビルの谷間で昼間でも店頭の灯が温かいほどに、ひっそりという言葉が似合う店だ。そんな分かり難い店だが、昼時となると客が訪ね、満員であることもしばしば。今日も引戸を開ける前から人の気配を感じ、恐る恐る戸を開けると、先客はカウンターに２人。とはいえ、小さいこの店にとっては余裕があるほどでもない。事実、ものの５分で店は客で一杯となった。

美人の女将さんに注文を通し、テーブルに置かれた「おしながき」に目を通す。自然と酒と酒肴の頁で手が止まるのは、未だこの店で飲ることを達していないからだろう。燗と玉子焼きを貰って...などと想像していると、鴨汁が運ばれてきた。

蕎麦は粒を残したものだが繊細な面持ちで、野趣味と繊細さを宿した艶やかなもの。一方の滑らかな椀には鴨、葱に脂の浮いた熱々の汁。辛口ではなく、出汁の旨さも感じるもので、柔らかく膨よかな鴨もいい。この汁ならもう少し荒っぽい蕎麦でもいいと思うが、好みの問題だろう。

何より、この店の居心地、雰囲気が好きだ。耳に入るの調理する音、水の音、小さな客の会話のみ。傍らから小さな窓から見える景色、照明の色彩、器の類。何か物足りないくらいに排されているが、凛として、忙しなさをふっと途切れさせてくれる。

【お店情報】
木挽町 湯津上屋　銀座1-22-14　地図

【今日のつぶやき】
湯津上屋さんの近くにあった「古拙」は、「仁行」として日本橋小舟町で再開しているそうです。