ハヤセ (荻窪)
丹精な洋食で燗酒を。
店の顔はとても雄弁だと思う。意匠はもちろん、軒先や暖簾の間から漏れる光や気配が、中に入って過ごす時間を鮮やかに想像させるからだ。「ハヤセ」との出会いもそうだ。珍しい黄色の暖簾と木戸の隙間から覗く空気が、とても穏やかで柔らかく、きっと気持ちよく過ごせる店だと思ったのがきっかけだ。
木を基調としたカウンターと小さなテーブル席がある清々しく、カウンターの奥には一升瓶が並ぶ、和食店らしい風情。だが、面白いのは、品書きに洋食と和食が共に並ぶところ。ご主人は洋食店で腕を振るっていたそうで、今も洋食屋らしいコックコート姿で厨房に立つ。
ある日は、海老マカロニグラタンに早瀬浦の燗酒。プクプクと沸き立つベチャメルの柔らかい白と綺麗な焼き色に、そっとスプーンを入れると、美味しい白を纏った赤い海老。ぷりぷりの食感と味付けの円やかさに、食が進むのはもちろんだが、燗酒も進むというものだ。
グラタンが旨いならこれも旨いに違いないと、カニクリームコロッケをお願いすれば、こんなにも繊細な表情。軽やかな衣の中にはぽってりとしたカニクリームがたっぷりと。
洋食では括れない、ローストビーフやガランティーヌなんてメニューも。ガランティーヌは、ナッツやパプリカ入りで、色味や食感の面白さ。ローストビーフ1枚とガランティーヌ2つのセットなんてのもあって、一人飲みにはグッとくる。
一方の和食も、洋食から受けるイメージと違わない。例えば、きんぴらごぼうならば、こんなにも繊細な千切りで嫋やか。味付けも繊細で、口にやさしい。
まぐろのづけならば、こんなにもキラキラとして。それこそ宝石のようだ。
和風と洋風の垣根を跨ぐようなものも、とても魅力的。驚いたのは、ある日のおすすめの山芋のソテー。衒いのない料理だが、山芋もたっぷりと添えられたほうれん草も食感と野菜の濃い旨みにハッとする。
オムレツならば、焦げ目一つない美しさ。中には出汁や醤油で味付けされたきのこが入った和風仕立て。内側に綺麗に残ったとろりとした半熟が、玉子ときのこをしなやかに繋ぐ。そこに、温い酒の佳きこと。
日本酒は早瀬浦が数種類。店名が「ハヤセ」であるのは何か関係があるのだろうかと聞いてみれば、ご主人夫婦の苗字が「早瀬」で、たまたま気に入った日本酒が「早瀬浦」だったということらしい。確かに、この店の料理によく合う。しかも、1合550円~750円という値段も嬉しいところだ。もちろん、ワインや焼酎の揃えも。
上質で、居心地がよくて、面白味もあって。ご近所にお住まいと思わしき落ち着いた年齢の方や、お一人若しくはご夫婦でという客が多いこともあるのだろう。店の雰囲気と荻窪という街のイメージがリンクする。開店して1年と少し。益々街に根付いていくだろう様を、近くで見けたらと思っている。
【お店情報】
ハヤセ 荻窪5-9-20 地図
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コメント
荻窪へと行ける機会が出来そうでしたが、知人の都合が悪くなりお流れ。カレーのトマトや、のむのむさまがレビューされているお店にも伺いたかったので、ちょっと残念です。でもまた機会を見つけて伺いたいと思います♪
それにしても、キレイなコロッケにオムレツですね。焦げ目ひとつありません。火加減が絶妙なのでしょうね~。
投稿: みゅうさ | 2013年3月17日 22:02
●みゅうささん
トマトも荻窪へ来たら、行ってみたいお店ですよね。
というか、美味しいもの(それも飲み屋だけじゃない!/笑)が
たくさんある街ですから
ぜひ、機会を作ってお越しください!!
投稿: のむのむ | 2013年3月18日 07:31
のむのむさま
こりゃまた美味しそう!
しかも地図を見れば毎週グラース動物病院の帰りに
うちのハナコと荻窪駅まで歩く道ではありませんか
いつも美味しいお店を教えていただいて
ありがとうございます
早速うかがいます!近いうちに・・・
投稿: hanachan | 2013年3月18日 10:34
●hanachanさん
あー、なるほど。ハナコちゃんは、猫ちゃんでしょうか、ワンちゃんでしょうか。
美味しくて、品が良くて(後、お値打ちだと思います/笑)
いいお店だと思います。
お気に召して頂けると、嬉しいです。
投稿: のむのむ | 2013年3月19日 07:24