桃介/とっくり (松山)
高知を後にして、翌日は松山。今年の夏の旅は、ずっと来てみたかった四国の旅だが、要するに、飲んだくれられる街を探しに来たというわけだ。そんな意味で松山は、必ずやまた訪ねたい街だった。
想像以上に市街地に近い道後温泉には見向きもせず、街中のホテルに鞄を置いて、目指すは歓楽街。一頻り街を散策して、目をつけていた店の扉を開店直後に開けたが、月曜にも拘わらず、既に予約で一杯という。
さて、どうしたものか。口はすっかり焼き鳥なんだ…と、街をもう一回り、二回りして、引っかかったのが「桃介」。松山に来たのに、「今治風やきとり」という看板を揚げる店だが、ちょうど仕事終わりのサラリーマンの2人連れ、3人連れが、店に吸い込まれていくのだ。これは、好い店に違いない。「愛媛の酒、あります」というもう一つの看板が後押しになって、暖簾を潜った。
サラリーマンとお馴染みさんが集う中、いかにも観光客風だったからか、「最初は皮焼になりますけど、よろしいですか」とご主人。
今治の焼き鳥と云えば、通は「皮」に始まり「せんざんぎ」に終わるらしい。勿論「お願いします」と答えると、今治の焼き鳥らしく、鉄板で、大きな鉄のコテでジュッーっと押し焼きする皮焼き。さらに、玉子も割ってこんな感じ。で、これがすんばらしく旨いんだ。鉄板でジリジリ焼かれたところと、ぷりぷりっとしたところに、甘辛いタレと半熟の黄身が絡まって、タマゴスキーでなくても、必ずニンマリすること請け合いだ。
この焼き方なら、旨いんだろうなァとお願いしたせせり焼き。こちらもパリッと焼かれた表面と噛みしめるとジュワリと旨いところが染みだすんだ。
本当は「せんさんぎ」で〆るのが正しいのだろうが、他に飲みにも行きたいしと、親鳥。食べやすいように切って出してくれるが、歯応えの良さと、噛むほどにジリジリと溢れる旨みにニッコリ。
満喫している最中も、続々と人が訪れて、「満席でゴメンナサイ」という状態にもなる繁盛店。せんざんぎの他、店のおすすめらしい「桃介焼」に「桃P焼」も気になるところ。兎に角、皮焼だけでも(そして、玉子を差し引いても)、もう一度食べに行きたい。
☆
桃介を後にして、もう一軒と彷徨ったところ、気になる2軒を見つけた。同じ通りにある店で、一見はとても美味しそうな季節の肴が並ぶ店、もう一軒は、素晴らしい風情のある店。100mくらい離れた両店を何度か往復して、伺ったのが、如何にも老舗の雰囲気を漂わせる「とっくり」。
店に入ってみると、外観からの想像に違わず、いい具合に年が付き、きっと昔は立派な店だったんだろうと想像させる雰囲気で、カウンターも座敷も大賑わい。空いていたカウンターの隅に入れて貰って、とりあえず酒の注文を通すと、出してくれたのは、こんなにも立派なお通し。二人組なら2種類、4人組なら4種類の季節感満載のお通しを出すそうだ。
お願いした刺身の盛り合わせは、老舗らしい品ある盛り合わせ。届けてくれたおねえさんが、「どちらからいらっしゃったの?」と声をかけてくれ、あれやこれや話していると、「実はね、ここ8月末で店、閉店しちゃうのよ」と話し出す。この日は、8月最後の月曜日。満員のお客さんは、名残りを惜しむ方々だったのだ。
揚げ出し豆腐も、衣の薄い「日本料理」という言葉を思い出す美しい佇まい。出汁とポン酢を出してくれたが、自家製というポン酢の柑橘の香りの芳しいこと。それにしても閉めてしまうなんて勿体ない。
女将さんは、「今の若い方はこういう料理を作らなくてね」と云う。今は、カウンターと小上がりしか使っていないが、元々は店の奥にある座敷も使った大きな料亭だったそうだ。なるほど、それでこんなにしっかりとしたトラディショナルな料理なんだ。
隣は駐車場。そのうちここも取り壊されてしまうのだろうか。旅の途中、たまたま立ち寄っただけの自分だが、とても残念な気持ちと寂しい気持ち、そして「明日も来るよ」と云って会計をする多くのご常連さんと、それを笑顔で見送るお店の方の気持ちで胸が一杯になった。こういう出会いもあるんだなァ。
【お店情報】
桃介 松山市二番町2-5-9 第5センタービル 1F 地図
とっくり 松山市二番町3-2-1
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コメント
死国の松山
秋山兄弟がらみ(夏目漱石とか)と
東ラブのロケ地ってくらいしか知らないですけど
昔からの城下町だけあっていい店が多いみたいですね
それにしても二軒目のとっくり
いろいろ事情があるんでしょうが閉店は残念っす
投稿: ぶひ | 2013年9月24日 08:27
●ぶひさん
東ラブのロケ地って看板、電車途中に見ました!
(ドラマは見てなかったけどw)
こじんまりとしてるけど、ギュッと詰まったいい街でした。
宿題にしてきたお店がいっぱいです。
翌日の昼は呉に行ったんですけど、松山と呉は、また行きたいです。
投稿: のむのむ | 2013年9月24日 23:04