森田食堂 （広島・呉）

松山を後にして向かったのは呉。目的は、大衆食堂での昼酒だ。

呉と云えば、戦前には海軍工廠、軍港として栄え、戦後は工業都市、工業港として再び活気付いた街。そこで働く人の胃袋を支えるためか、呉には朝から夜まで営っている大衆食堂が多くあり、朝から飲めるというのだ。

どこへ伺おうか、営業時間とこれからの予定を算段して、訪ねたのは呉の駅を出て右手すぐにある「森田食堂」。創業は大正２年。今年100周年という古い店。戦前は、現在の呉駅前ロータリーで旅館や食堂をやっていたそうだが、区画整理等で何度かの移動を経て、今の場所で、食堂のみ営業を続けているそうだ。何しろ、左右逆になった当時のままの形の暖簾に痺れるというもの。

暖簾を潜ると、横長のテーブル２卓と、右手には長いカウンター。すでに、ビールや酒を片手に飲っている先客数人。昼時だというのに、皆一人、それぞれのペースで気ままに飲っている。これはいいなァ…と思っていると、奥から女将さんが「いらっしゃい～」と迎えてくれた。

ビールをお願いすると、然も見事に「シュポンッ」ってな音を立てて、瓶の蓋を抜いてくれる。コポコポとグラスに注いで、キュッと一杯ひっかけたら、さてはのツマミ。店の入口を入ってすぐ左手にある銀色のガラスケースに、様々な料理が並んでいて、それをセルフでとるスタイル。玉子焼きに煮物、煮魚、焼き魚に、サラダ類等々。日替わりだそうだが、ほとんどが150円～300円と本当に大衆的。まずはと茄子の煮物を貰って、店内をぐるりと見渡す。

壁には、うどんにそば、味噌汁などと温かいもの。これらは、ガラスケースではなく、奥で作って出してくれる。貰ったのは名物という「湯豆腐」。

目の前にやってくると、出汁ととろろ昆布の香り、そして、遅れて柚子の香りが湯気に乗って、ふぅわりと届く。　

昔乍らのといった旨みある豆腐が、半丁ほどドンと入っているのも嬉しいが、特筆すべきはこの出汁。いりこと鰹の出汁に、醤油で軽く味をつけたものだが、とっぷりと優しいのに、感じるのは豊かさと奥深さ。これだけで酒のアテになりそうだ。正直に云えば、この旅一等の出会いの一つだったと思う。

調子にのって、再びショーケースから小鰯の煮物。小鰯は広島、瀬戸内の方でよく食べられると聞いていたから、出会ったら食べてみたいと思っていたもの。こちらは、旨い出汁に醤油をしっかりと使った煮つけで、噛みしめるとギュッと鰯と煮汁の旨みが染み出るんだ。

他、烏賊の煮たのや、あの出汁を使ったうどん、根強い人気があるという中華そばとか、気になるものがたくさんあったがそろそろ時間切れ。それにしても素敵だなァ、呉の食堂。今度は、朝っぱらから梯子をしにこなければ。

【お店情報】
森田食堂　呉市中央1-9-4 地図