ゆき椿 (荻窪)
昨年、日本酒が好きな方から、荻窪にいい店が出来たよと小耳に挟んでいたのだが、絶対来なければ!と思ったのは、偶然に嗅いだ如何にも旨そうな醤油と生姜で炊いているような香り。その香りの場所はどこだろうかとキョロキョロすると、店の灯りは見えないが、仕込みをしているんだと思い至った。その店が、ゆき椿。
その翌週、店に伺って、これはいけないと思った。A4の裏表にぎっしりと書かれた品書きは、どれも魅力的で、どれかに絞るなんてできるだろうかと、とにかく悩ましい。とりあえず、ビールを貰って考えようとお願いしたところ、同時に出してくれたお通しにまた驚いた。干した小鯛と菜の花に、出汁を引いたもの。この澄んだ出汁が沁みるような味わいで、寒い中来た身体をホカホカと温めてくれる。
いや~、益々悩ましいぞ、と品書きを睨んでいると、その様子を察したのか、「お一人なら、半量でもお出ししますよ」と有難い申し出。それではと貰ったのが、大好物の〆鯖。生に近い好みにドンズバリの〆具合。脂もよく乗って、さぁ、お燗だ、お燗。
和え物系もいくつか気になるものがあったが、これは珍しいと、ラ・フランスの白和え。品の良い衣の下から、ラ・フランスの自然な甘味がとろり。他にも、果物を使った料理が幾つかあって、それらも気になってくるというものだ。
あまりに気になるメニューが多かったものだから、翌週二人で訪れた。先ずはとお願いした刺し盛りは5種類。先日に頂いた〆鯖の他、鰤に鰆、烏賊に平目。盛り付けや器の美しさも魅力的。
赤貝と分葱のぬたなら、赤貝や分葱を活かす優しく円やかな和え衣。
鯖ラバーなら気にならずには居られない、鯖の揚げ出し。鯖だけでもほっくりと旨いのに、衣が吸った出汁に大根おろしが、風味を加えて、洗練さを漂わせる。
牡蠣好きとして気になっていたのは、牡蠣の麻婆豆腐。山椒が香り高く、スパイシーな色合いを魅せるが、粗く切った牡蠣の旨みがグイグイと。キレの好さと残るこっくりした旨み。う~ん、これは好きだなぁ。全体を通して感じるのは品の良さ。日本酒も淡麗なものから旨口なものまで30種類ほどあり、こちらも何とも悩ましい。
オープンは、昨年5月。息子と父、親子鷹で営む店は、カウンターとテーブルがあるが、ご近所にお住まいの方が、ご贔屓にしているようで、一人か二人連れでカウンターが賑わう。昔お父さんがやっていた店のお客様も、いらっしゃるよう。まだ頂きたいものが盛り沢山。長くお付き合い出来たらと思っている。
【お店情報】
ゆき椿 杉並区天沼3丁目12-1 地図
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