田吾作 (益田・島根) その2
正解は、鮎の背ごし。キラキラとして、運ばれてきたときの「わぁ~」感足るや。
背越しとは、鮒や鮎などを頭やヒレ・腸を取って中骨があるまま輪切りにしたもの。それは薄く薄く、敷かれた氷の煌めきか、鮮度の佳い鮎の煌めきかと思うほど。鮎は益田に流れる高津川の鮎で、そういう意味でも、ここだからこそ。もう一つ云えば、できるだけ安定して提供できるよう、女将さんがかなりの工夫と努力をされている。
口にして若鮎らしい比較的柔らかい骨を噛み砕いていくと、やって来るのは鮎が生きてきた川や食べていた物の香りや味わい。それは恐らく、その川で泳ぐよりももっと濃密でリアルで、一生忘れえぬ感覚だと思う。
捌き立てだからと内臓も添えられる。「生うるか」とでもいうような、フレッシュな内臓に塩をしたもの。生鮮で、しかも身よりも強く感じる生き物感と塩味に、酒が止まらなくなる。
もう一つは、ツガニ。この蟹は、御宿の舟勝で頂く汁物として大好きなモクズガニの「カニコシ」に使われるものと同じもの。実物を見たのは初めてだが、本当に藻屑がハサミにたっぷりとついて、だから「モクズガニ」なんだ。
大ぶりではないからこそ詰まった身の旨みと、何と言っても味噌。一頻り食べたら、酒を注いでグイッと。プハ~、こりゃ堪らんわ。
〆ない質だし、「一杯戴いて、もう腹いっぱい」と思っていたら、「先ほどの鮎の頭や骨で味噌汁にしました」と、お椀におにぎりまでやって来た。味噌汁は勿論、握りたてのホカホカおにぎりのほどける握りと心配り、温かみが旨いこと。腹いっぱいと思っていたのに、結局ペロリだ。
もう満喫とお会計を申し出る。6時に入って10時前。確かに腹もいっぱいになるはずだ。この時間になると、家族連れの姿はなく、カウンターに集うご近所のご常連さんばかり。来たときはお目にかかれなかった女将さんが出て来て下さって、東京から来たことを話すと、「こんな遠くまで」「ホテル取るの大変だったでしょう」なんて云いながら、「これ持ってって」と、素敵だなと思っていた店の名入りの猪口を手渡してくれた。
ここでしか味わえない料理と女将さんと初めとする皆さんのお人柄。「人生に一度だけでも」と思って来たが、知ってしまったら「また必ずや」。旅をして飲む楽しみを、改めて教えて貰った気がしている。
【お店情報】
田吾作 島根県益田市赤城町10-3 地図
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