しまや (弘前)
いつもの店の別の顔
青森の旅は、いつも「しまや」から。開店時間に合わせて伺って、その後ハシゴなんてことが多いが、今回は少し遅い時間に訪ねる。引戸を開けると、いつも早い時間にいらっしゃるご常連の姿はなく、時々すれ違いになるご常連さんがカウンターに座っている。
去年も伺ったのは夏だったこと、弘前の最近の天気など話していると、女将さんのにこやかさも手伝って、1年の空白などすぐに吹き飛んでしまうから不思議なものだ。
カウンターに目を移せば、いつものとおり、料理が装われた琺瑯のバットが並ぶ。堅苦しいものではなく、家庭で食べられてきた料理ばかり。例えば、ここに来たなら必ず頂く、シャリシャリッとした食感の涼味が印象的なミズと油揚げや
帆立と凍み豆腐の煮物。帆立の旨みを存分に吸い込んだ凍み豆腐は、地味だが素晴らしきご馳走。
地元の方の他、自分のような旅の客も多いこの店。この日も、左側に座っていた二人は、てっきり二人客だと思っていたが、それぞれ別々の旅の途中だったらしい。「これから青森ですか?」「そちらへ行かれるなら、ここがオススメですよ」なんて会話も楽しいもの。
酒を豊盃に切り替えて、続くは、青森の日本海側、深浦のもずく。天然物で、粘りとコリコリとした歯ごたえが特長的。
それに棒鱈煮。そうか、青森で鱈というと冬のイメージだが、沢山採れる時期に保存をしておくわけか。思い至れば、ごく自然で当たり前のことだが、その土地で目の当たりにすると、胸に響く。
カウンターの琺瑯バットを指さして「このポテトサラダ下さい」と云うと、「ごめんなさいね、これポテトサラダじゃないの」と女将さん。丁寧に潰したじゃがいもに枝豆が入っていて、ポテトサラダに見えたが、マヨネーズは使わず、塩で調味した「塩いも」という料理らしい。ごく滑らかで芋の自然な甘さを引き出す塩の塩梅の素晴らしいこと。何気ない料理なのに、滲む透明感。実にしまやらしいと思う。
時間は、20時半を過ぎた頃。残るは、ご常連さんと女将さん、自分だけ。もう現役は引退されたというご常連さんの学生時代の話や、東京で働いていたときの話を伺いながら、干鱈を割いたものに玉子を入れた「たらたま」を頂戴する。噛み締めて滲む味が、重ねた人生に重なって染みる。
最後には、桜の時期に弘前を訪ねたことのない自分に、「ぜひ、桜の時期にいらっしゃい」との言葉を戴いて、お別れ。
いつもは時間が経つほどに賑やかになっていくが、今日はだんだんと静かになっていく。女将さんも腰をかけて、ゆったりと時間が過ぎる心地よさ。大好きな店の別の顔を知って、更にまた、好きになる。
【お店情報】
しまや 弘前市元大工町31-1 地図
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