五醍 (札幌)

この店は、札幌を旅する理由になる。
生ラムジンギスカンのやまかの斜向かいに、やたら雰囲気のある店があって、気になっていた。年季がつき飴色になった入口にかかる紺地の暖簾には「酒庵 五醍」。右手には、ほんのり灯る行燈に「居酒屋」とある。これは次札幌に来るときは伺わなければと思い、訪ねたところ、心が震える出会いとなった。

店に入るとほんのりと明かりが灯り、コの字のカウンターの中央には囲炉裏。火や煙の温かさが出迎えてくれる。予約したのはカウンター席。囲炉裏端が見えて、この景色だけでも好い肴。

先ずはサッポロクラシックを貰って、焼き物を。どうしても食べたかった北寄貝と烏賊、焼き牡蠣をお願いする。先ずやって来たのは北寄貝。火は入っているものの、絶妙な艶やかさ。口にすると芳ばしい香りと歯応えのシコシコとした食感に噛みしめてじんわり広がる甘味。

そして、烏賊なら、この見事な姿。炙っているというのに、むしろ瑞々しさを感じるほど。一方で噛めば、クッと詰まった烏賊の旨味と炙った香ばしさが、穏やかにじんわりと広がっていく。そこへ燗酒。堪らない。

次に届いたのが、牡蠣焼き。こちらは見るからにギュッと味が入って詰まった感じ。とは言え、中はしっとりとジューシーで牡蠣の旨味がたっぷり。それに、外側のカリカリになった香ばしいところも、また好い肴。

箸休めとして貰った塩からがまた素晴らしかった。この鮮度、美しさ。美味しいところだけを残した繊細さ。噛みしめて溢れる烏賊と腸の旨味。酒を飲む手が止まらない。

二巡目には、ししゃもに、野菜から椎茸を。大きくて厚みもある原木椎茸は、口に含むとエキスがジュワリ。どれも味付けはシンプルだが、香りと絶妙の炙り加減が見事なご馳走してくれる。

そして、何十年と炙られ続けてきたからこそのこの雰囲気。また、この日は熱燗を貰ったが、ぬる燗ならば、囲炉裏の上に吊られている甕から注いでくれるコップ酒。その様子もまた好いもので。寒いのは苦手だが、雪の降る日に凍えながらここに来て、炙った烏賊に燗酒なんてと夢を見てしまうのだ。
【お店情報】
酒庵 五醍 札幌市中央区南7条西4丁目2-18 地図
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