川なり (山形)
季節感と郷土の風味が詰まったおまかせ料理に、豊富な日本酒でご機嫌。近くにあれば通う店。
山形県には何度か訪れたことがあるが、山形市には行ったことがなく、以前から行ってみたいと思っていた町の一つだ。城を中心とした城下町らしい風情と。商業都市としての賑やかな街並み。その中に息づく文化や食の魅力が、何より心を惹き付ける。
もちろん、地元の酒場もその一つだ。幾つか伺いしたい店があったが選んだのは「川なり」という一軒。飲食店が軒を連ねるエリアではあるが、少し外れた場所にひっそりと佇む。街灯も控えめなその一角で、ここの辺りのはずだが…きょろきょろと見渡すと、ぼんやりと灯る明かりに照らされた「川なり」の文字を見つけた。
一軒家と思って入ったが、想像以上に広がる店内に驚かされる。カウンター席が数席あるが、座敷が主体。案内されたのは少人数向けの小上がり。奥では地元の方々が既にご機嫌で盛りが立っている様子。料理はおまかせ一択(2,750円)だから、あとは酒を選ぶだけ。というのに、酒の揃えが見事で、とりあえずビールを貰って酒を考えることにする。
そうこうしているうちに前菜が届く。これが圧巻。これだけで3合呑めると思うほど。7種類ほどの料理が美しく装われた盛り合わせというのもいいし、あけびの油炒めや山形名物の「だし」、牛肉の治部煮、炒り黒豆の甘味噌和えなど、季節感と郷土の風味が詰まっている。
傍らには、青菜と油揚げ、椎茸の煮浸しも、控えめながらしっかりと酒の進む味わい。
次に届いたのが刺身の盛り合わせ。平目や鯛、鮪、蛸など5種類、2枚ずつあるものもあって、適度な量と種類のバランスがほど良く好感。
そして、鰊の漬け焼が運ばれてきた。その艶やかな照りにまず目を奪われるし、口に運べば、濃厚な旨味と脂が甘辛いタレと絡んで、やっぱり酒がすすむやつ。添えられた茄子や牛蒡、万願寺唐辛子なども、旨い脂とタレの風味で極上の酒肴。
最後の〆として登場したのは、具沢山の味噌汁。大きな器には豚肉、大根、人参、厚揚げ、葱などがごろごろと。ついついこれでもう一杯呑めそうと思ってしまうが、まだ手元に、前菜盛り合わせの幾つか残っていて、それらをゆっくりといただきながら、温かい汁物でほっと一息。温かくて、胃も気持ちもじんわりと落ち着いた。
久しぶりによく呑んだ。ビールに加えて、日本酒を一人4~5合。これだけ満足して、料理を含めて一人6,000円少々という価格は、都内の感覚からすれば驚きだ。帰り際、店の方がわざわざ見送って下さるなど、気遣いを感じる接客も、この店の味。美味しさだけでなく、居心地の良さや気軽を兼ね備えたこの店は、地元の方だけでなく、旅の人にもおすすめしたい一軒だ。
【お店情報】
川なり 山形市香澄町1-21-3 地図
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