ててて (荻窪)

冬から春へと移ろう季節の滋味を。
オープンから月日を重ねるごとに、その実力と人気を確かなものにしている荻窪の「ててて」。定番の安心感はもちろん、季節の移ろいを鮮やかに映し出す逸品たちの充実ぶりには、訪れるたび新鮮な感銘を受ける。今回も品書きを眺め、冬の名残と春の芽吹きが交差する料理の数々に、期待が静かに膨らむ。

まずは、刺身の五種盛り。この日の本鮪、鯵、あずきはた、イサキ、金目鯛。ここの刺身は、いつも、白身や青魚が多めというのが好きなところだ。

そして、大好きなおからに心を掴まれる。浅利と蜆(しじみ)の濃厚な出汁をたっぷり含んだ「貝出汁おから」で、隅々にまでじわりと染み渡る滋味深さ。そこへホクホクとした百合根の甘みと、原木椎茸の力強い香りが重なり、一口ごとに味の奥行きが深まっていく。

蕗の薹味噌を忍ばせた「おきつね焼き」は、まさに酒を呼ぶ一品。サクッと香ばしく焼かれた油揚げを噛み締めれば、春特有のほろ苦さが口いっぱいに溢れ出す。抗いようもなく恋しくなる、熱めの燗酒。この組み合わせこそ冬の愉しみ。

さらに、熱々の「白子春巻」が届く。とろりととける濃厚な白子に、添えられた柚子味噌の香りとコク、紫蘇の清涼なアクセントが絶妙。素材の重なりが計算し尽くされていて、一皿ごとに店主のセンスの良さが光る。

ここで、酒の供に欠かせないのが、好物の「炒り醤油豆」。炒った豆の香ばしさと、ほどよく染みた醤油の塩梅が実に心地よい。冷める心配も乾く懸念もなく、酒肴として手元に置いておくとこれほど都合のよい一品はない。ついつい手が伸びる、止まらない旨さ。

いか下足のファンなものでお願いした「いか下足のさつま揚げ」は、その圧倒的な密度とふわふわ感に驚かされる。地味になりがちな下足魅力を最大限に引き出した、力強い旨味。噛みしめるほどに押し寄せる魚の甘みは、まさに自家製ならではの醍醐味。

宴の締めくくりを飾るのは、白魚、独活(うど)、うるいの玉子とじ。白魚の繊細な甘みを、春野菜特有の瑞々しい苦味が引き立てる。淡雪のような玉子がそれらを優しく包み込む、見事な調和。
一皿ごとに旬を慈しみ、季節の足音を舌で感じる贅沢な夜。心もお腹も満たされる、至福のひととき。大切な店。
【お店情報】
酒と肴 ててて 荻窪4-32-8 地図
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