2026年4月 9日

柿ざわ 蛤そば (阿佐ヶ谷)

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阿佐ヶ谷の路地裏、凛とした空気が流れる「柿ざわ」。冬にいただいた下仁田葱の甘み、衣に染みたつゆが忘れられず、今度は、春の訪れを告げる品を求めて再び暖簾をくぐる。

店内を見渡せば、人生の先輩方がゆるりと酒や蕎麦を愉しむ、相変わらずの穏やかな光景。この落ち着きこそが、この店の美徳。お目当ての「季節のそば」に目をやれば、そこには「蛤」の文字。心の中で小さく快哉を叫び、迷わず注文を済ませる。

ほどなくして運ばれてきた、春を湛えた一器。蓋を開ければ、目に飛び込むのは立派な殻を携えた、大ぶりなはまぐりが三つ。そして、磯の香を運ぶ生海苔。驚かされたのは、そのつゆの佇まい。一般的な醤油色のそれではなく、まるで極上の「潮汁」を思わせる、淡く、ほんのりと白濁した仕立て。

まずは、そのつゆを一口。口中に広がるのは、はまぐりの上品でいて濃密な甘み。雑味のない、どこまでも澄んだ海の慈しみ。そこに添えられた針生姜が、心憎い。ピリッとした微かな刺激が、淡い味わいの輪郭を鮮やかに縁取り、風味をいっそう引き立てる名脇役。

主役のはまぐりは、熱が入ってもなお、むっちりと太った見事なもの。噛み締めるたびに、閉じ込められていた旨味がじわりじわりと溢れ出す。蕎麦を啜れば、生海苔の風味が絡み合い、鼻へ抜ける香りはまさに春の息吹そのもの。

冬の葱も佳かったが、この春の昂揚感もまた格別。店を出れば、先ほどまでの余韻が心地よく、家路につく足取りも心なしか軽やか。春の陽気に誘われて、少し浮足立ちそうになる自分を、そっと宥めながら歩く幸せ。

【お店情報】
柿ざわ 阿佐谷南1-47−8 地図

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2026年3月24日

阿波や壱兆 鯛と春野菜のそうめん (阿佐ヶ谷)

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近頃、どうしても再会を待ちわびていた一杯がある。大好物の半田そうめんの専門店「阿波や壱兆」の「鯛と春野菜のそうめん」だ。昨年の「鯛と薬味野菜のそうめん」がとても美味しさが忘れられず、野菜が春の装いへと変わって再登場したと聞けば、期待に胸が高鳴らないはずがない。

席につき注文を通すと、あいにく春野菜の主役、筍が品切れとのこと。少し肩を落としたが、「その分お値引きしますね」という店主の温かな心遣いに、かえって胸が温かくなる。

運ばれてきたのは、淡い桃色の鯛と鮮やかな菜の花が寄り添う、春を凝縮したような一器。筍がなくとも、そのコントラストは十分に眩しい。添えられた大野海苔の磯の香りが、ふわりと鼻腔をくすぐり食欲を突き動かす。

まずは透き通った出汁をひと口。鯛のあらから丁寧にとったであろう、雑味のない上品なコク。出汁の熱でほんのりと白んだ鯛の身は、口に運べば驚くほどふんわりとやわらかく、噛みしめるほどに上品な甘みがじわり。そこに薬味野菜とはまた違う、菜の花特有のほろ苦さが良いアクセントとして加わり、鯛の甘みをぐっと引き立てる。これぞ春の妙味。

筍の不在を忘れさせるほどに完成された春の味で、太めの半田そうめんがこの繊細な出汁をしっかり抱き込み、喉を通る瞬間の幸福感。名残惜しくも、メニューにあるうちに、ぜひもう一度。

【お店情報】
阿波や壱兆 バイパス店 阿佐谷南3-2-3 ローレルビル 1F 地図

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2026年3月 5日

日本ばし やぶ久 牡蠣天ぷらそば (銀座)

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牡蠣のシーズンもいよいよ終盤戦。今季その存在を知り、どうしても食べたかった「牡蠣の蕎麦」に滑り込み。向かったのは銀座三丁目、ビルの地階に店を構える「日本ばし やぶ久」。開店当初に伺って以来、かなり久方ぶりとなったが、凛として落ち着いた店内の佇まいは、相変わらず気持ちがいい。

目当ての牡蠣蕎麦は、もちろん季節限定。名物「カレー南蛮」仕立ての牡蠣カレー南蛮、牡蠣天ぷらそば、そして牡蠣南ばん。品書きには温・冷たが並び目移りしてしまう。カレーの誘惑も強いが、やはり天ぷらは外せない。春めいた陽気に誘われ冷たい蕎麦も頭をよぎったが、温かい汁に浸った天ぷらが魅力的で、牡蠣天ぷらそばをお願いする。

「おまたせしました」と運ばれてきた牡蠣の天ぷらの圧倒的な存在感に目を奪われる。牡蠣の殻をそのまま写し取ったような大ぶりの身は、小判型でぷっくりとした厚みの見事なこと。それが贅沢にも4つ。これは存分に堪能しがいがありそうだ。

先ずはおすすめいただいた塩でいただくと、中は驚くほどレアで噛むと潮の香りが鮮烈と広がる。レモンを絞れば甘みを引き立ち、蕎麦の汁に浸せば、少し濃いめの汁を吸った衣と、余熱でさらに旨味を増した牡蠣が旨味が口いっぱいに広がる幸せ。蕎麦は細くたおやかなで、ツルツルと小気味よい喉越しが堪らない。

周りを見渡せば、日本酒と酒肴を一人で嗜む粋な客も。山菜の天ぷらそばなども始まっていて、季節を追って再訪したいのは勿論、この牡蠣そばは毎年の楽しみになりそうだ。

【お店情報】
日本ばし やぶ久 銀座店 銀座3-3-6 銀座モリタビル B1F 地図

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2026年2月27日

タムタイフード カオソーイ (阿佐ヶ谷)

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二日前に味わった「トムヤム鍋」が忘れられず、「タムタイフード」をさっそく再訪。きっと何を食べても正解なのだろうが、次はこれと決めていたのが「カオソーイ」。もともと好物ということもあるが、あのトムヤムスープの味を考えると、カオソーイも間違いなく好みのはず。

開店一番乗りで店に入ったが、12時近くになると続々と客がやってくる。駅近くの喧噪から離れた立地ながら、前回も満席だったことを考えると、知る人ぞ知る人気店なのだろう。

ほどなくして運ばれてきたのは、生春巻とスープが寄り添う賑やかな一盆。黄色いスープに映える揚げ麺やパクチーの盛り付けが美しい。まずは、楽しみにしていたスープを一口。下の上でとろりと広がるカレースープのコク、そこに重なるココナッツミルクのまろやかな甘味。そうそうこれだと思わず膝を打ちたくなる。

パリパリの揚げ麺をスープに浸すもよし、そして中華麵と豪快にすするもよし。こんもりと盛られたパクチーの下からは、ほろりとくずれる鶏肉がゴロゴロと顔を出すうれしい驚き。セットのスープも、シンプルな野菜と肉のスープだったが、これがじんわりと滋味深くて、やはりこの店の料理が好きだと確信。

次はトムヤムヌードルで異なる麺を求めるか、あるいは、タイカレーに浸るか。店を後にしてもなお続く幸せな悩みに、当分終わりは見えそうにない。

【お店情報】
Tum Thai Food 阿佐谷南3-3-3 Y.S.Kビル 1F 地図

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2026年2月10日

泰明庵 せりそば (銀座)

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うっかりしていると、あっという間に2月中旬。冬の恵みを今のうちに存分に教授しておかなければと、足を向けたのは「泰明庵」。この時期、のここへ来る目的といえば、「せりそば」である。

暖簾をくぐると、1階は溢れんばかりの活気。「お二階どうぞー!」という声に導かれ階段を上がると、こちらもほぼ満席という盛況ぶりだ。手前のテーブルに相席をさせていただいて、注文するのは、もちろん「せりそば」。

期待に胸を膨らませて待っていると、相席の方にそばが届く。どうやらお二人とも「かしわせいろ」。しかし、店内を見渡せば、かなりの人が芹のそばを注文している様子。やはりこの味を待ちわびるファンは多い。

ついに、手元にそばが届く。隣の方がこの香りが苦手なら、少し申し訳なくなるほどの野趣あふれる芳醇な香り。丼を覗けば、力強い根っこまでを含んだ鮮やかな緑がこんもりと。先ずは根っこを摘まんで一口。シャクシャクと噛むほどに、口内や鼻腔一杯にさらに深く広がる香り。そこへ蕎麦をズズッと啜り込めば、滋味深い温かい出汁の香りも相まって幸せの一杯。

帰り道、呼気に混ざる仄かに残る芹の香りと、じんわりと熱を帯びた胃袋の温かさに、思わず笑みがこぼれる。今シーズン、あと何度この幸せに浸れるだろうか。

【お店情報】
泰明庵 銀座6-3-14 地図

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2026年2月 4日

柿ざわ 下仁田葱の天ぷらそば (阿佐ヶ谷)

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阿佐ヶ谷には、不思議と佳い蕎麦屋が多くある。休日に遠慮なく昼から飲ませてくれる店、好い肴と蕎麦、酒のある落ち着いた店、昼から予約必須の店。それぞれ個性がありながらも、好い時間を過ごさせてくれる店たち。「柿ざわ」もまた、その一軒だ。何度かお伺いしたことがあるが、コロナ禍の折に入店が時間による入れ替え制になり、タイミングが合わなくなってしまって、しばらくご無沙汰していた。

先日ふと思い出し、久しぶりに伺おうと思っていたところ、偶然知ったのが、季節限定の「下仁田葱の天ぷらそば」。これは早々に食べにいかなくては。

パールセンター商店街から路地に入ったところ。和食店のような趣のある店構え。暖簾をくぐると奥から店の方が「いらっしゃいませ」と迎えてくれる。テーブル席ではすでに料理を楽しむ人が見える。一人用のカウンター席に腰を下ろして、メニューを確認すると…よかった。「下仁田葱」の文字に胸を撫でおろす。

注文をすませると、まず箸とネギ、レンゲが乗った盆が運ばれ、しばらくするとそばが届く。湯気とともに立ち上がるのはふくよかな出汁の香り。それにしても立派な下仁田葱だ。一つつまんで口に運べば、サクリとした衣から溢れる出汁の旨味とともに、葱の香りと甘み、とろりとした食感がじわりと広がる。あぁやっぱり美味い。そして蕎麦をずるり。添えられた海苔の香りが、出汁の風味にまた新しい彩りと添えてくれる。今日はこれをいただいて大満足。

季節のそばも好いが、ランチタイムの人気は日替わり膳。今日は蚕豆ご飯に、ひじきの煮物、香の物、天ぷら4品に蕎麦というセット。蕎麦前を楽しむ方もいらっしゃるし、傍からで運ばれていく皿は目にも楽しい。今度は久しぶりにならないうちに再訪を。

【お店情報】
柿ざわ 阿佐谷南1-47−8 地図

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2026年1月29日

豊年屋 鍋焼きうどん (阿佐ヶ谷)

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刺すような寒さに、恋しくなったのは「出汁が染みた天ぷら」だ。そう思えば、まず浮かぶのは天ぷらそばだが、この底冷えとなれば話は別。海老天入りの鍋焼きうどん、あれしかないと自然に足が向く。向かうは、杉並区役所の斜向かいに店を構える「豊年屋」だ。

暖簾をくぐれば、店内は近くで働く人々や界隈の常連客による活気に満ちている。テーブルは相席で埋まっていたが、空いていた小上がりに腰を下ろす。注文を済ませて待っていると、後から来た二人組も迷わず鍋焼きうどん。やはり、この寒さには誰もが温もりを求めているらしい。

「お待たせしました」の声とともに運ばれてきた土鍋。店の方がそっと蓋を取った瞬間、勢いよく立ち昇る湯気に包まれる。あぁ、これだ。鼻先をくすぐるのは、蕎麦屋らしい出汁と醤油の香り。湯気の向こうに見える目当ての海老天。そうそう、出汁が染みてこそ旨い麩もあったんだ。

他には椎茸に蒲鉾、玉子焼き、若芽、豚肉になると。具沢山で、どれもが役者。花揚げの衣をまとった海老天は、汁を吸ってなお軽やかで、噛めば海老の甘みがきちんと残る。江戸前らしいキレのある出汁が、うどんと具材にじんわりと染み込み、体の芯まで温めてくれる。

店を出ると、先ほどまであんなに冷たく感じた冬の空気も、今は心地よいくらい。この温もりが消えないうちに、午後の仕事に戻るとしよう。

【お店情報】
豊年屋 成田東4-37-10 地図

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2026年1月20日

阿波や壱兆 鴨南蛮そうめん (阿佐ヶ谷)

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店のInstagramで提供開始の知らせを目にして以来、ずっと気になっていた「阿波や壱兆」の鴨南蛮そうめん。限られた昼の営業日や師走の慌ただしさを言い訳に、伺う機会を逃し続けていたが、今日、ようやく訪ねることができた。

大ファンの半田そうめんの専門店。定番のメニューもあるが、季節ごとのそうめんも楽しみの一つで、中でも「鴨南蛮そうめん」は冬のお楽しみだ。

運ばれてきたのは、いつもより少し濃いめの出汁のそうめん。出汁の香りと鴨の香りからもう美味い。先ずはと出汁を一口含めば、奥行きのある甘辛さに、鴨から溶け出した脂の旨味、それをたっぷり吸った葱の香りや甘さがじわりと沁みる。

そこへそうめんをズズッと。この出汁は、蕎麦はもちろんだが、細麺でコシの強い半田そうめんにもぴったりだ。今シーズンからすだちが別添えになったが、清涼感ある香りがより鮮やかでいいアクセント。これも季節のごちそう。

提供を始めたと知ると、昨シーズン食べた方が今年もまたと訪ねてくることが多いそう。今年も冬の間はずっと提供してくれるというから、なんとも頼もしい。来週から再び寒波が来るというが、この温かな一杯を求めて、春が来るまでに何度もこの場所へ足を運ぶことになりそうだ。

【お店情報】
阿波や壱兆 バイパス店 阿佐谷南3-2-3 ローレルビル 1F 地図

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2026年1月13日

國定 出汁巻き玉子定食 (銀座)

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午前中の打ち合わせが予定より延びて、ようやく解放されたのは昼休み直前。慌てて表へ出たものの、今日のランチはまだ決まっていない。歩きながらどこへ行こうか考える。久しぶりの「せりそば」も気になるし、この季節なら「牡蠣」も捨てがたい。ふと、今日は火曜日であることに気づく。それなら迷わずあそこ。火曜日限定、國定の出汁巻き玉子定食。

地階の店に入ると、先客は一人。厨房から響くシャカシャカという小気味よい音。あの音から察するに、あの方も間違いなく出汁巻き定食に違いない。注文を済ませると、今度はきっと自分の分。玉子が混ぜられ、丁寧に焼き上げられていく。カウンター越しにその鮮やかな手捌きを眺められるのも、カウンター席の醍醐味だ。

運ばれてきたのは、目に鮮やかな黄色が眩しい玉子焼き。土鍋炊きのご飯に具沢山の味噌汁、小鉢に水キムチ。玉子焼き用のかえしと、味噌汁用の生七味が添えられ、期待が高まる。

まずは、味噌汁を一口。柔らかな味噌の風味に、大ぶりにカットされた大根の旨味がじんわりと身体に染み渡る。そして、主役の出汁巻き玉子。温かくて、何より塩梅がすばらしい。控えめな甘さ、とろとろ過ぎない絶妙な柔らかさ。おかずとしても酒肴としても申し分ない完成度。小鉢の蓮根の金平、そして好みの炊き加減のご飯。理想の定食だと思って食べ始めたが、もはやそれ以上。細部まで全てが好みにピタリと重なる。

後から来る客も、ほぼ全員出汁巻きを注文していく。火曜日の國定に来る人々は、皆これを求めてやってくるんだろうな。お品書きに目をやると、今月の月替わり「温かいつくね大根そば」の文字。こちらも気になる。

【お店情報】
手打ち蕎麦國定 銀座6-1-16 花椿ビルB1 地図

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2026年1月 6日

長生庵 牡蠣天そば (築地)

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築地で所用を済ませた昼過ぎ。当初は気になっていた店でカキフライをと考えていたが、生憎今日は限定メニューのみで目当ての品がない。さて、どうしたものか。

「牡蠣」というキーワードで考えを巡らせれば、蜂の子のカキフライや中村家のかきしゃぶも頭をよぎるが、今シーズンまだ口にしていない大好きな一品を思い出した。長生庵の牡蠣そばだ。

店前へ向かうと、幸いなことに外までの行列はない。勢いよく扉を開けると、先客が一人待っているのみ。その後ろに付いて外で待機していると、あっという間に私の後ろにも列が伸び始めた。10分ほどして案内された店内は、1時半を過ぎているというのに大盛況。まだ年始休みの方や、海外からの観光客が嗜む酒が羨ましく映る。

品書きにある今日の牡蠣は、「牡蠣天そば」か「牡蠣天カレーそば」。この店のカレーそばも好物だが、あの衣に蕎麦汁がじゅわっと染みた瞬間を想像すると、今日は「牡蠣天そば」一択だ。

運ばれてきた正月らしい器には、見事な大きさの牡蠣天が2つ。 箸で持ち上げるのがやっとという程の重量感。格闘している間にも、サクサクの衣に琥珀色の汁が刻一刻と染みていく。がぶりと齧りつくと、サクッとした衣から出汁が染みだし、後から牡蠣の旨味がグッと来る。

この衣と、出汁のバランスが絶妙な汁との相性が、やはり堪らない。出汁を吸って少しへたった衣の美味しさは、素材の良さと汁の完成度があってこそ。そこへ時折、三つ葉や柚子の香りが入るのも好い。

帰りには、思わぬお年賀として焼海苔までいただいて。ふと品書きの端に目をやれば、真冬の最中とはいえ、春野菜の天ぷらも顔を出し始めていた。 次は何時、何を。次はどの季節の味をこの汁で楽しもうか。店を出るそばから、早くも次のスケジュールを調整したくて仕方がなくなっている。

【お店情報】
長生庵 築地4-14-1 モンテベルデ 1F 地図

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